ことば散策 山田俊雄

ことばの散策

ことば散策 (岩波新書)

ことば散策 (岩波新書)

ことばの歳時記と似たようなものと思いますが,俳句雑誌「木語」と「NHK俳壇」に連載したものから成っています。「自分の幼少の頃,父や母のことばによってはぐくまれたものを回顧してみること,また家庭外で得た言語経験を懐旧の情をもって記憶の中から取り出してみることをしてみたかった」とあります。幼少の頃に聞いた,使った言葉がふと出てくることが確かにあります。仙台出身の著者にはずいぶんと母親から言われたことばが記憶にあるようです。「おんぼりと」とは「何の気がねなく,ゆったりと」と言う意味のようです。「おんぼりと食べたいだけ食べる」という使い方をするようです。

「ハス」という言葉。「ハズバンド」の短縮ですが,永井荷風「墨東綺譚」に出てくる「ハスになる資格がないって云ふの。」の会話には時代を感じさせます。今では使われないでしょうが,粋な間柄の二人を想像させます。また面白い言葉に「ろは台」があります。もちろん「只」のロハからきているようですが,公園などにあるベンチのことのようです。確かに有料ではなくタダですからね。森鴎外「雁」に「丁度日陰になっている,ろは台を尋ねて休めて」と出てくるようです。「凸凹」はでこぼこで変換してくれますが,もとは「だくぼく,でくぼく」であったらしい。荷風は凹凸と逆に使っているとのこと。「数珠」「珠数」「奇遇」「遇奇」などと熟語の順列は必ずしも整合してもいないのだそうです。