売文生活  日垣 隆

売文生活 (ちくま新書)

売文生活 (ちくま新書)

タイトルからして興味あるものでした。「売名行為」とはいいますがこういう「売文生活」とは耳慣れないものでした。ようするに文章を書いて生計をたてている人々の生活のこと。出版界の原稿料などを,あからさまに描き出しています。普段気にしていなかった原稿料や印税の話に,目から鱗の連続でした。その中でも夏目漱石の話は興味あるものでした。イギリス帰りの漱石は外国の契約社会を見てきて常に「契約」ということが頭ににあったのでした。大学,高校をやめ朝日新聞に入るさい年俸2800円を獲得するのです。

つまり作家で初めてのフリーエージェント契約を行った人でもありました。手当ての固定,昇給するのか,ボーナスはどうか。恩給はどうか小説は何回書けばいいのか,新聞に載せた作品の出版権などなど。漱石当時,41歳でした。また長野県で講演をしたことも残っています。「教育と文芸」を信濃教育会にて約1000人の聴衆を集めて行っています。講演料は60円,現在の貨幣価値から言ったら30万円くらいだといいます。漱石のほかに,筒井康隆氏や立花隆氏のことにも触れています。流行作家とはどのような人を言うのか,フリーライターの人がクレジットカードを作る苦労,家を建てる苦労なども実例を挙げて話してくれます。いろいろと考えると「売文生活」は自分には無理なことだと分かってきます。