短篇ベストコレクション 現代小説2004

tanpen

2004年に発表された短篇の中から厳選されたベストアンソロジーです。普段「小説宝石」「オール讀物」「小説現代」など手にする機会が少ないので非常に官能的?に楽しんで読めました。それに現代の最前線にいる作家の動向も知ることができ、最近の女流作家の文体も知ることができます。「現代小説界を鳥瞰するに充分な秀作揃いである」「発表先の各雑誌へも関心を向けていただければ幸い」と選者が述べているとおりです。角田光代「サイガイホテル」。日本から逃げるようにして東南アジアに行く。安ホテルとアルバイト先を往復する生活を送るが隣部屋の男女に、パスポートやそのほか大事なものが入ったバッグを盗まれてしまう。日本の育った町と異国が交差し、日本人の姿、女の姿が哀愁とともに描かれています。「サイガイ」は「災害」のことだったのです。

売れっ子、石田衣良は「声を探しに」が選んであります。32歳になったOLが身体表現性障害という精神的な理由から突然声が出なくなる。声が出ない彼女と同僚の桜井との掛け合いがうまい筆致で現されています。衝撃的だったのは野坂昭如の「誰よりも妻をー」でした。最近作をしばらく読んだことがなかったのでこの作家のうまさを改めて感じました。自分の妻のいやな面?を饒舌とも言える表現で書き続ける。最後の場面が圧巻です。亡くなった妻と添い寝をして股間をながめ・・初めて「泣き出した」のです。このほか、江國香織伊集院静浅田次郎川上弘美など全20作を一気に読破しました。