わが心の小説家たち 吉村 昭
- 作者: 吉村昭
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1999/05/01
- メディア: 新書
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歴史小説家があえて敬愛する作家について語っています。「森鴎外、志賀直哉、川端康成、岡本かの子、平林たい子、林芙美子、梶井基次郎、太宰治」これは講演記録をまとめたものであるため、平易な口調で語りかけていますので素直に耳に入ってきます。特に川端康成は2回の講演のものを掲載していますので、より深く知ることができます。「雪国」や「伊豆の踊り子」などが有名ではありますが短編「死体紹介人」が秀逸だという意見にはその通りだと思います。最初にこの小説を読んだときはなんと冷えた目で死を見つめることができるのだろうかと感じました。またその設定が特異なだけに感激した記憶があります。川端康成は幼いころに周りの多くの「死」を見て過ごした経験からこうした作品が生まれたのでしょう。
また太宰治については「何かというと破滅型だなと定義づけられるが、そうは思わない、人間失格のような小説は生まれない」と言っています。「強い意志力、強い知性の力」があったからこの傑作は描けて、また多くの読者を得ている、としています。それには賛成です。以前三島由紀夫が太宰のあのような自堕落?な生活は運動や体を鍛えたらすぐ直るみたいなことを言っていた記憶もありますが、三島の太宰嫌いの片鱗をうかがわせる逸話でありますが、それほど安易なものではなかったとは思っています。この作者、吉村氏は最初の「太宰治賞」を受賞した人でもあったのです。