「三島由紀夫」とはなにものだったのか  橋本 治

三島由紀夫

「三島由紀夫」とはなにものだったのか (新潮文庫)

「三島由紀夫」とはなにものだったのか (新潮文庫)

橋本治とはイラストレーターのイメージが強かったのですが,作家,翻訳家,古典の現代語訳などの活躍が目覚しい作家でもあるのですね。この文庫の表紙が懐かしい感じがします。一連の朱色文字の明朝体で書かれた三島由紀夫のタイトルをむさぼり読んだ記憶があります。それほど時代としては「読まなければならない作家」であったような気がします。実際橋本氏も「なにが三島由紀夫をスターにしたのか。その最大の理由は,三島由紀夫が生きていた時代の人間が,みんな文字を読んでいたということである・・・。」とも書いています。また「日本で一番頭のいい作家」だったとも言っています。三島文学を「つまらない」という人は「俺は三島より頭がいい」と宣言していることになる。

橋本氏は「仮面の告白」について多くを語っています。「三島由紀夫は『同性愛を書かなかった作家』である。三島由紀夫が同性愛を明確に書いたのは,「仮面の告白」と「禁色」の二作だけである」とも言っています。「仮面の告白」を読んだのは高校時代でしたが当時この作品に出てくる「聖セバスチャンの殉教図」(重要な位置を占めるものですが)はどんな絵だろうと思って画集を探した覚えがあります。それを見て,一瞬「あっ,見てはならないものを見てしまった」との記憶があります。両手を木の上にくくられ,体には矢がささっているのですが顔は恍惚とした絵だったような気がします。その後三島由紀夫の「薔薇刑」(細江英公)で三島が同じポーズの写真を撮っているのを見ましたが,案外素直にうなずけました。さもありなん。

新鮮?に感じたのは杉村春子水谷八重子中村歌右衛門との関係でした。それに美輪明宏を加えて欲しい気もします。三島の「演劇の母,杉村春子」「三島自身の女優,水谷八重子」「三島の最愛の女優(女方中村歌右衛門」それでは,美輪明宏は「三島の恋人にならなかった黒蜥蜴」とでも言えるかな。この本は第一回小林秀雄賞受賞作品。