やさしさの精神病理 大平 健

やさしさの精神病理 (岩波新書)

やさしさの精神病理 (岩波新書)

「豊かさの精神病理」に続く大平氏の新書です。あたかも自分が診察を受けているような感覚で読めます。これは一種の戯曲みたいなものですね。様々な「患者」が訪れます。確かに最近「地球にやさしい」「環境にやさしい」「肌にやさしい」「健康にやさしい」「胃にやさしい」なんにでも「やさしい」がついています。その「「やさしい」とはなんでしょう。私も「○○さんはやさしいのね」?と言われますが・・?。ただやさしいだけで,いい人で終わるのでしょうか?氏は「やさしさ」が言われ始めたのは60年代後半の学園紛争時代だと言います。男も「やさしく」なければならなくなった。「やさしさ」とは「連帯」を目指すものだった。また「ホット,クール,ウォーム」という言葉を使っています。「高校の先生はクールで相談しづらい,ホットな友人は人の心の中までも入って同情してくれるが,やはり相談しにくい。ウォームな友人が相談できる。」ウォームがこの患者の「やさしさ」なのです。相手の気持ちに踏みこまないように,気をつけながら滑らかで暖かい関係を保っていこうとすることのようです。

少しまえに,小学生が鉛筆などをカッターや小刀などで削るのは,危険だから止めさせた。ところが最近はまともにカッターなど使えず,ケガをしたりする,そういう「生活経験」が少なくなったのでまた,刃物で,鉛筆や木を削る体験をさせ始める教育が見直されています。万が一でも子どもにケガをされるのがいやなのです。それが大人の「やさしさ」だと思われてきたのです。傷がつくのは体ばかりではなくココロもそうであって,人はココロが傷つくのに敏感になっているのです。「やさしさ」がもとめるウォームな関係(滑らかな人間関係)も変化してきているのだそうです。昔のように話を聞いて一緒に泣いてくれる「やさしさ」から,「やさしい」人ほど人の悲しみや悔しさに動揺してしまうので,「やさしい」人に自分の心の痛みをうつすことがかえって悲しみが増す。それで新しい「やさしさ」は「涙お断り」ということだそうです。生温い付き合いが現代の心地よい関係なのでしょう。女性に,どんな男性が好きですか?と質問すると,「やさしーい人がいいです」と必ず返ってきます。その「やさしい」人はどんな「やさしさ」のことを言っているのでしょう?