ODA援助の現実 鷲見一夫

ODA援助の現実 (岩波新書)

ODA援助の現実 (岩波新書)

日本のODA(政府開発援助)は本当に相手国の人々の役に立っているのだろうか?援助の名の元で「開発」が行なわれている発展途上国の現状はどうなんのだろうか?著者は日本の援助においては陰の部分が多くの割合を占めていて,援助資金の流れが不明瞭である,使途がはっきりせず,援助国の低層の人々に役に立ってないと言う。経済的(打算的)援助が圧倒的に多く,日本企業の利益を誘導する性格が強いとしている。そしてそれらの事例を具体的に示しています。インドネシアのアサハン・アルミプロジェクト,ブラジルのアルミニウム精錬プロジェクト等々。また,これらの援助によって現地ではどのような被害?が出ているかを述べています。ブラジルのアマゾン川流域の大規模な開発により,熱帯林の破壊,自然林の消滅,入植者とインディオとの対立,生活基盤の崩壊などが起きていると言います。インドでのダム計画ではダム建設による原住民の強制移住,広大な農地,森林,野生生物なども水底に沈んでしまうという問題もあります。

いったい何のための援助であるのでしょう。それらの解決のためには先住民の保護に関して国際労働機関ILOで条約を制定したり,経済協力開発機構OECD環境アセスメントの導入をして,大規模な援助プロジェクトで,環境に著しい影響を及ぼすときは,アセスメントが行なわれるなどの新しい試みも行われつつはあるようです。特に日本の援助に関してはどのように改めていくかとして 1)援助理念の明確化 2)援助実施体制の再構築 3)環境・先住民ガイドラインの設定 4)調査・研究機関の創設 5)環境アセスメントの導入 6)援助関連の情報の公開 7)事後評価制度 このように様々な改善点があるODAは国民に開かれたものであって,だれのための援助であるのかを強く主張していく必要があるようです。