ブナの森を楽しむ  西口親雄

ブナの森を楽しむ (岩波新書)

ブナの森を楽しむ (岩波新書)

本当に「楽しむ」にぴったりの著書です。作者はブナの森を守るとか,拡大してゆこうなどという思想でもって語っているのではなく,ブナの森の中に入っていくと,いろいろな小鳥のさえずりや昆虫などに会えることを楽しんでいます。その出会いが楽しいのであって,自然,それは破壊から守る,そのままにしていたいという体験になっていきます。ブナ森は戦後どんどんと伐採され,成長の早い,建築用木材に適した,スギ・ヒノキ森に変わっていきます。スギ花粉の大量発生を生み,また伐採によりはげ山を作り,その矛先を海外に求め,世界の森食い虫となっていきます。
スギ・ヒノキ・マツなどの針葉樹は伐採すると切り株は死に,根は腐るのだそうです。台風などで倒れたり幹が折れたりして枯れても同様なことになる。集中豪雨のたびに山は倒木と土砂を流し続ける。反対に広葉樹は伐採しても,風で倒れても根株から萌芽してまた樹林が形成されるのだそうです。土水環境を守る力もある。作者は「スギ林にブナ林を混交ぜよ」と主張しています。本来スギという木はブナの天然林の中に生える樹種で相性はいいし,土水環境を守るためにも混交林が良いといいます。いちがいに「ブナを伐るな」ではなくどのように管理していくかを,考えていくべきだともいいます。国にばかり任せてきた国有林の管理を国民みんなで「自分たちの森」という意識で管理育てていくべきであろうと提言しています。最近,里山の保護にこのような動きが出てきているのではないかと思います。