月と日本建築 宮元健次

月と日本建築 (光文社新書)

月と日本建築 (光文社新書)

今年の「中秋の名月」は確かによく観賞できました。おりしも日本の月探査機「かぐや」も順調に軌道に乗っているようです。この書は副題で「桂離宮から月を観る」になっています。ドイツの建築家ブルーノ・タウトが「泣きたくなるほど美しい」と賛美した桂離宮,それが「月」を観るための配慮が施されているということです。またこの桂離宮の建つ土地自体が昔から月の名所として知られていたといいます。まさに「月」を観るために建てられたといっても過言ではないのです。どうしてこれほどにしてまで月を愛でるかというと,月の運行,三日月にはじまり,満月,新月,また三日月に生まれ変わるところに,不老不死を結びつけていたのではないかというのです。

桂離宮のほかに「銀閣寺」の建築にふれています。「銀閣寺」の東正面にはその名の通り月の出を待つ「月待山」がありますが,その観月の目的のために造られといます。しかし当時は天変地異があり,大飢饉の中で銀閣寺は造られていきますが,足利義政はそれを観ることなく逝ってしまいます。地獄絵の様相を呈していた時期に義政は銀閣寺の造営に着手するわけです。それほど「月」を愛でたい意識が強かったのです。著者はそのような乱世の中で,無数の人が血を流しながら建てた銀閣寺のもみじが真っ赤なのを,オーバーラップして想像しています。