江戸の絵を愉しむ 榊原 悟

rensan2008-06-25

江戸の絵を愉しむ―視覚のトリック (岩波新書)

江戸の絵を愉しむ―視覚のトリック (岩波新書)

                              鞘絵
江戸ブームにあり,あえて「江戸の絵」と限定しているところに惹かれて読みました。最近では江戸時代の若冲などがそのデザイン的な斬新さで注目を浴び,展覧会なども開かれています。筆者は,「生活のなかの遊び」「視点の遊び」「かたちの遊び」の3部にわけ,あくまでも「愉しんで」という視点で面白い絵などを紹介してくれています。1部の「生活のなかの遊び」では襖絵は閉じたときと開けたときの「可動性」を生かした「動く絵」だと言っています。確かに絵師は襖が閉じられた時と,明けた時の効果を考えて描いていることが良く分かります,単に全面に描き出したのではなく,明けていた襖が閉じられてハットする紙芝居的な驚きも期待して描いているのです。

「大空武左衛門像」渡辺崋山
面白かったのは「大きいことへの関心」で「大空武左衛門像」です。あの渡辺崋山(1793-1841)が描いたというのですがその大きさです,実物大で描いてあります。大男で7尺3分(213cm)あった人物なのです。現代のバレーボール選手でも街中で見かけるとその大きさに驚きますが,江戸時代の213cmといったらまさにモンスターです,それを仔細に「実物大」に描いているところに面白さを感じます。江戸では話題の人だったようでついには「春画」にまで描かれ取締りの対象にもなった。確かにここまで大きいと,あそこはと思うのが日本人の好奇心のくせ?そこまでは見ることができませんがまさに「博物館的興味」で描かれています。

Ancimboldo 「秋」/歌川「としよりのよふな若い人」
「視点の遊び」では歌川国芳(1797-1861)の「寄せ絵」とアンチンボルドAncimboldo(1527-1593)の「合成された顔」を比較しています。どこかで見たことはあると思いますが,歌川のは顔が人物の寄せ集めで描いてあり,アンチンボルドは草花や果物で描いています。関連性については述べていませんが、ユニークな考えでまさに「愉しんで」描いています。その他に鏡に映った画像の絵や「鞘絵」刀の鞘のようなゆるやかな彎曲する面に映し出されて初めて正常な「かたち」が現れる絵など,江戸人は絵にも「愉しみ」を持ち,豊かな鑑賞眼があったことが分かります。

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