女たちがつくるアジア 松井やより

女たちがつくるアジア (岩波新書)

女たちがつくるアジア (岩波新書)

長年の新聞記者時代から培った豊富な知識,経験から,アジアの女性たちを現場レポートのように語ってくれます。あるタイの女性は,貧困ゆえに仕事を求めて海外を渡って日本に来たが,それは借金を背負わされて売春を強要されるシンジケートに入ることになってしまった。今でも新聞などでも報道されることが昔から行われているのです。日本での家畜のような生活,どこへにも逃げられない,逃げたら,両親を殺すという脅し。実際タイでは殺し屋を雇うことは簡単だそうです。そういう搾取しているボスを仲間三人で殺害する。これも新聞で見聞きしたような事件です。これらは「買春社会日本へ,タイ女性からの手紙」という本になっているようです。

日本が世界最大の人身売買女性受け入れ国になったのは性産業が異常に肥大化し,4兆円を超えて,GDPの1%にもなっていて,そこで働く日本女性不足を埋め合わせするためだと言います。また,性産業が拡大する理由は封建時代の公娼制度が尾を引き,今も買春が容認される性風土があること。それに現代の企業社会が激烈な競争に疲れて慰安を必要とする企業戦士たちを大量に作りだしているからだと指摘しています。後者のことは素直にはうなづけない気はします。

もう一つの問題として「エイズ」も挙げています。アジアのエイズの中心はインドで,ボンベイの買春地帯では40%の売春女性が感染しているといいます。エイズの知識不足から,遠い山村の貧しい人々がもっとも感染しやすく,貧困家庭が感染者をかかえて一層貧しくなっているスパイラル状態にある。このほかにユーカリ植林による自然破壊,従軍慰安婦問題などなど問題は山積しています。そんな中,今アジアの女性たちは団結を通して,訴えてきはじめています。さらにそれは軍事化に対しても立ち向かってきています。戦争で死んでいくのは自分が生んだ子どもたちでもあるからです。